人間よ、なぜここへ来た?
ラピデムは怪物の木の山の中心に棲む岩石の生命体だ。
正式な名称は「マグヌス・コルクルス・ドゥルス・サピエンス・ラピデム」という。
知恵を持つ偉大で賢明な硬い石、という意味だ。
その昔、彼は精霊であった。
神によって太古の世界が創造された時、神のしもべとして数多の精霊が誕生し、
その中の一人がラピデムだった。
ラピデムは草木の女神セレスと、大地の女神ガイアに仕える精霊として、
神々の手が届かない地域を見守ってきた。
神と共に魔王との戦闘に参加した際、彼は敗北し、深手を負って空から地上へと墜落した。
プレイオスの山の中で目を覚ました彼は、自身の体が岩の姿に変貌していることに気が付いた。
彼の前に現れた大地の女神ガイアは、消滅しかけたイーストランドを守るために
力を使い果たしてしまい、こういう姿でしかラピデムを助けることができなかった、と詫びた。
しかし、ラピデムは、生きていることに感謝し、命を救ってくれたガイアに礼を述べた。
その後、ラピデムは怪物の木の山の中心で、生物たちを見守りながら過ごした。
時は流れ、やがて彼は怪物の木の山の神のような存在となっていた。
気難しい性格ではあるが、信頼する者に対しては誠意を尽くし、
些細なことにも力を貸してくれる彼は、山の生物達から厚い信頼を得ていた。
そしてなにより、古代から永きにわたって世界を見てきた彼の蓄積された知識と経験は、
とてつもない宝でもあった。
ラピデムは岩の姿に変貌してからというもの、一度も眠ることはなかった。
眠りたいと思っても、その岩の体は眠りを知らなかったため、彼は稀に瞑想することにしていた。
しかし、眠りを知らないはずの彼が、たった一度だけ眠りについてしまったことがあった。
眠りから目覚めた時に、茫然自失となる程の深い深い眠りであった。
しかし、怪物の木の山に異変が起きていることに気が付いた彼は、すぐに気を引き締めた。
異世界のオーラに包まれた存在の放つ混沌とした叫び声が、山全体を揺り動かしていたのだ。