Part.1呪いにかけられた少女が辿り着いた地
少女は、その力があれば皆を救えるという甘言に乗る。
しかし、彼女は誰一人救うことができず、その罪の意識から逃れることもできなかった。
彼女は死を望んだが、自分を利用した者たちを殲滅させてもなお、
その望みが叶うことはなかった。
幾たびも死の淵から蘇った彼女は、自分を貶めた者達が絶えると、
あてどもなく西へと向かった。
望んですらいない「冥王」という称号と、
呪いを背負ってしまったその身に
孤独と絶望を抱えながら…
放浪の末に彼女が辿り着いたその場所は、
草原地帯と南部砂漠地帯の間に位置する、捨てられた大地であった。
荒廃したその大地に、自らの姿を重ねた少女は、その地の主となることを決めた。
どうせこの先、悠久の日々を生きねばならないのなら
何かしらの楽しみを持ってみるのも悪くはないであろう、と…
やがて月日は流れ…世界に知られることになったその場所は、
全ての者を感嘆させる偉大な都市へと変わっていた。
Part.2冥王に創られし奈落の都市
地下都市タルタロスは、冥王シャイニックが
自らに課せられた長い時を持て余さないために、建設を始めた都市であり、
暗黒戦争後、約290年もの歳月をかけて建設され、100年前に知られることになった。
イーストランド南部地域では、ルーメンに次ぐ2番目に大きな独立した都市である。
魔力を込めた宝石により、各階層は照らされ続け、
水が絶えないよう、絶えず川から水源を引いていた。
シャイニックは、デイモス教団などによって引き起こされた各種の紛争で
疲弊した被害者たちを連れて来ては、タルタロスに住まわせた。
誰にでも都市の施設が解放されている自由な都市だが、
地下から漂う得体の知れない死の影の気配を感じ、人々は訪問をためらった。
デイモス教団でさえ、ここで死の影を見たと言い、遠ざけている場所だ。
シャイニックはそんな噂など気にも留めず、引き続き地下都市の拡張を続けた。
人生の一部をこの都市に捧げた彼女には、もはや他に選択肢がなかったのである。
Part.1タルタロス地下の巨大空間
戦場で数多の命を奪った冥王が死んだという噂が出回り始めた。
しかし、当のシャイニックがその姿を現し、その噂は一瞬でかき消された。
彼女の再来と共に現れたのが、巨大な地下都市タルタロスだった。
大陸を彷徨う紛争の被害者や、悲劇を望まぬ世捨て人らが、
タルタロスの噂を聞きつけてその都市を訪れた。
シャイニックは自らの邪魔をしないことを条件に、その者達を都市へと受け入れた。
そして約100年の時が流れた。
タルタロスはいかなる勢力の影響も受けない、シャイニックのための都市となっていた。
それは悪名高いデイモス教団も簡単には近寄ることができない程であった。
それゆえ、タルタロスの住民達にとっては、まさに理想的な都市でもあった。
しかし、ただ一人シャイニックだけは、現状のタルタロスに満足していなかった。
最初は、思い付きの気晴らしで始めたタルタロスの建設であったが
いつしか彼女はそれに執着し、タルタロスの地下を拡張し続け、巨大な空間を造った。
Part.2タルタロスに吹きすさぶ異質な風
シャイニックが造った空間は、暗黒魔法の呪いと魔界のオーラに満ちていた。
その場所を制御できるのはシャイニックただ一人であったが、
なぜかいつの日からか、すっかり興味を失くしてしまったようだった。
しかし、誰もその理由について尋ねることは無かった…いや、尋ねることができなかった。
理由を尋ねることで、シャイニックの気分を害し、
最悪の状況に繋がることもあるかもしれなかったからだ。
シャイニックが放棄した地下空間は、
奈落の間から溢れ出るモンスターと悪魔達で埋め尽くされ、
さらに警備として雇ったはずのギルド「ブルーランサー」までもが暴虐の限りを尽くしていた。
もはやその惨状は収集がつかないレベルであり、人々はその場所を避けるようになった。
Part.1タルタロスの特別な記念館
冥王シャイニックはタルタロスには何かが不足していると感じていた。
より多くの人々を呼び込むためには、この都市にも話題性のある何かが必要なのだ。
大陸の人々の興味を惹く話の一つが「超人」である。
大小様々な紛争や戦争…その戦いの中から出現した超人達は、
平凡な暮らしを勤しむ人々にとっては、なかなか近づくことのできない存在だった。
シャイニック本人も超人であるため、タルタロスを活性化するために、
「超人」を利用しない手はないと考え、すぐに行動へと移した。
シャイニックは古の超人から現在の7大超人まで、それらに関連した資料を探し出した。
中には協力を拒んだり、反対する超人達もいたが、
シャイニックは、有無を言わさず、半ば強引に彼らの所持品を奪い取ってきた。
不死の呪いと、膨大な魔力、そして底知れない執着心を持つ
彼女だけが成し得る大胆な行動であった。
そして、間もなくタルタロスの奥深い場所に巨大な記念館が造られた。
さあさあお立合い!「超人」達の情報に溢れた超人記念館の開館だ!
Part.2盛況を極めたかつての記念館の今
現在は7大超人がその名を馳せているが、過去には多くの超人が存在していたという。
大陸の人々の苦難を救うために、修練を重ね超人となった少女。
超人としての力を正しく使い、戦場に現れた白く巨大な狼に首を噛まれ
命を落とした少年の話…
タルタロスへの移住者や旅行者は、
超人に関する資料を興味深く閲覧し、超人記念館は賑わいを見せた。
…しかし、その盛況も一時的なものであった。
シャイニックがタルタロスの管理を放棄してからは、
超人記念館は立ち入ることさえ難しい場所になってしまった。
超人の所持品に宿る魔力に反応したモンスターが群れになって押し寄せ、
展示品を狙った泥棒達が現れ、記念館を荒らし始めたのだ。
シャイニックの執事メルビックは事態を収拾しようと
警備力に名高いギルド「ブルーランサー」を雇用したが、
「ブルーランサー」のギルドメンバーは契約に反した動きを見せ、事態はより悪化した。
その騒動のおかげで、超人記念館は入場禁止となってしまった。
立ち入ったら、どんな目にあってしまうのか…想像するに恐ろしい。
Part.1奈落…そして享楽の間
シャイニックは気晴らしに都市の建設を始め、やがてそれに没頭していったが、
一部の者達は冥王としての彼女を放っておかなかった。
数多の者達がシャイニックに挑んできたが、彼女は死ななかった…いや「死ねなかった」。
敵の返り血をたっぷりと浴びたシャイニックは、
虚無感に襲われ、建設した部屋の中にモンスターを放つと
モンスター達が戦い合う姿は人間とそれと変わらない…と思った。
シャイニックは、ふと、ここでモンスターと人間達を競わせたら面白そうだと考えた。
すぐさま彼女は、奈落の間と名付けた空間に多額の賞金を懸け、
そのあちこちに貴重な宝物を隠して人々に解放した。
大金を稼げる場所があるという噂は瞬く間に広まり、
奈落の間は数多くの者達が訪れる、イーストランドの名所となった。
過去に奈落の間を訪れた者はこのように語った。
「そこはまるで、生ける地獄…そのものであった」と。
Part.2過去を目覚めさせる場所
ある時、世界の均衡が崩れ、奈落の間の一角に隙間が生じた。
その隙間から入り込んできた悪魔マルパスは、シャイニックにより
奈落の間に閉じ込められ、外に出る事ができなくなってしまった。
しかし、タルタロスの強大な闇と魔力が籠るオーラに魅了されたマルパスは、
この場所こそが自らの領地であると考え、奈落の間にやって来た人々を殺しては
その魂を吸収することで自らの力を増大させていった。
だが、問題はそれだけではなかった。
数百年前の暗黒戦争にて、ジュード王国の英雄と讃えられた大魔法使い…
その大魔法使いが亡霊として現れ、自分を殺せる者を探して彷徨っているというのだ。
さらに…自分を殺す力がないと分かると、その者の命を奪ってしまうという。
冒険者達はすぐにタルタロスの主人、シャイニックに事の次第を伝えたが、
彼女はそれを聞こうとはぜず、何もすることもなかった…
…いや、何もできなかったのだ
まるで何かに怯え、苦しめられているかのように…